2015年01月31日
ききみみ…昔話♪
ききみみあんこの今日のお話は~
テングの腕比べ
むかしむかし、
中国にチラエイジュというテングがいました。

このテングがはるばる海の上を飛んで来て、
日本にやって来ました。
そして、日本のテングに言いました。
「わが中国の国には偉い坊さんがたくさんいるが、
われわれの自由にならぬ者は一人もいない。
日本にも修行をつんだ偉い坊さんがいると聞いたので、
わざわざやって来たのだ。
一つその坊さんたちにあって腕比べをしたいと思うが、どうであろう」
中国のテングは、偉そうな態度で言いました。
日本のテングはその態度に腹を立てましたが、
しかしそんなそぶりは見せず、丁寧な口調で言いました。

「それは、それは。遠いところを、わざわざごくろうさまです」
実は日本には、名僧、高僧と呼ばれる偉い坊さんがたくさんいて、
テングたちよりも強いのです。
そこでこの傲慢(ごうまん)な中国テングに、
ギャフンと言わせてやろうと思ったのです。
「いや、この国の偉い坊さんといっても、あまり大した事はありません。
我々でも、こらしめてやろうと思えばいつでも出来ます。
しかし、せっかく遠い国から来られたのですから、
適当な坊さんを、二、三人お教えしましょう。
どうぞ、わたしと一緒においで下さい」
そう言って日本のテングは、
中国のテングを連れて比叡山(ひえいざん)にやって来ました。
そこは、京都から比叡山の延暦寺(えんりゃくじ)にのぼる道です。
「わたしたちは人に顔を知られているから、
あの谷のやぶの中に隠れておりましょう。
あなたは年寄りの法師に化けて、ここを通る人をこらしめて下され」

そう言うと日本のテングは、さっさとやぶに隠れてしまいました。
そして、中国のテングの様子をうかがっていました。
中国のテングは、見事な老法師(ろうほうし)に化けました。
しばらくすると山の上から、余慶律師(よぎようりつし)という坊さんが
手ごしに乗り、たくさんの弟子たちを従えて京都の方に下りて来ました。
余慶律師の一行は、次第に近づいて来ました。
(さて、いよいよだぞ)
しかし、ふと中国のテングの方を見ると、もう姿が見えません。
余慶(よぎよう)の方は何事もない様に、
静かに山を下って行きました。
(おかしいな、どこへ行ったんだ?)
そう思いながら中国のテングの探すと、
何と南の谷にお尻だけ上に突出して、
ブルブルと震えているではありませんか。
日本のテングは、そこへ近寄ると、
「どうしてこんな所に、隠れておられるのか?」
と、尋ねました。
すると中国のテングは、わなわなと震える声で、
「さっき通ったお方は、どなたじゃ?」
と、尋ねました。
「余慶律師という、お方でござる。
それより、なぜこらめしては下さらんのじゃ?」
日本のテングが言うと、中国のテングは頭をかきながら、
「いやそれ、その事でござる。
一目見て、これがこらしめるという相手だとすぐにわかった。
そこで立ち向かおうとしたのだが、
何と相手の姿は見えず、手ごしの上は一面の火の海。
これはとうていかなわぬと思って、隠れたというわけでござる」
それを聞いた日本のテングは、心の中でニヤリと笑いました。
(やはり中国のテングと言っても、大した事はない。
もう少しからかってやれ)
しかし、真面目くさった顔をして言いました。
「はるばると中国の国からやって来られて、
これしきの者さえ、こらしめる事が出来ないとは。
今度こそは、必ずこらしめてくだされ」
「いや、いかにも、もっともでござる。よし、見ておられい。
今度こそは必ずこらしめてごらんにいれよう。ふん! ふん!!」

中国のテングは気合を入れると、また老法師に化けました。
しばらくすると、また手ごしに乗った坊さんが山を下りて来ました。
それは、深禅権僧正(しんぜんごんそうじょう)という坊さんで、
手ごしの少し前には、先払いの若い男が太い杖をついて歩いています。
日本のテングは、やぶの中からじっと見ていました。
中国のテングは手ごしの近づいてくると、
通せんぼうする様に立っていましたが、
先払いの若い男が怖い顔をして太い杖を振り上げると、
思わず頭をかかえてそのまま一目散に谷に駆け下りました。
「いかがなされた。また、逃げて来られたではないか」
日本のテングは、やぶの中から声をかけました。
すると中国のテングは、苦しそうに息をはずませながら、
「無理な事を言われるな。手ごしの方どころか、
あの先払いにさえ近寄る事が出来ぬわ」
「そんなに、恐ろしい相手でござるか」
「いかにも。
わしの羽の早さは、はるか中国から日本まで飛ぶ事が出来るが、
とてもあの男の足の早さにはかなわぬ。
もし捕まったら、あの太い鉄の杖で頭をぶちわられてしまうわ」
「さようか。では、次こそ頑張って下され。
せっかく日本まで来られたのに、手柄話一つなしに帰られたとあっては、
めんぼくない事ではござらぬか」
日本のテングはそう言うと、さっさとやぶの中に入ってしまいました。
中国のテングは仕方なく、次に来る坊さんを待つ事にしました。
しばらく待っていると、下の方からたくさんの人が
山を上って来るのが見えました。
先頭には、赤いけさを着た坊さんがいて、
その次には若い坊さんが、立派な箱をささげて続きます。
その後ろから、こしに乗った人が山を上って来たのでした。
そして、こしの左右には二十人ぐらいの童子たちが、
こしを守る様にしてついています。
このこしに乗っている人こそ、
比叡山延暦寺の慈恵大僧正(じえだいそうじょう)で、
一番偉い坊さんだったのです。
日本のテングは、やぶの中からそっとあたりを見回しました。
しかし中国のテングの老法師の姿は、どこにも見えません。
「また逃げたかな。
それとも、どこかに隠れて、すきを狙っているのかな」
すると童子たちの中の一人が、
大声で話しているのが聞こえてきました。
「こういう所には、とかく仏法(ぶっぽう)の妨げをする者が
ひそんでいるものだ。よく探してみようではないか」
すると元気のいい童子たちは、手に手に棒きれを持って、
道の両側に散らばって行きました。
見つけられては大変と、
日本のテングはやぶの中深く潜って行き、そっと息をひそめていました。
と、谷のすぐ向う側で、童子たちの怒鳴っている声が聞こえてきました。
「そら、ここに怪しい者がいるぞ。ひっとらえろ!」
「何だ、誰がいたのだ?」
「おいぼれの法師が隠れていたぞ。
あの目を見ろ、普通の人間には見えぬぞ」
(大変だ。中国のテングが、とうとう捕まったぞ)

日本のテングも恐ろしさに、
ただ頭を地にすりつけるようにして、じっとひれ伏していました。
やがて足音が、遠ざかって行きました。
日本のテングは、そっとやぶからはい出すと、
あたりを見回しました。
すると十人ばかりの童子たちが、
老法師姿の中国テングを取り巻いているのが見えました。
「どこの法師だ、名前を言え。
なんの用があって、こんな所に隠れていた!」
一人の童子が、大声で言いました。
中国のテングは大きな体を小さくして、あえぎあえぎ答えました。
「わたくしは、中国から渡って来た、テングでございます」
「なに、中国のテングか。何をしに来たんだ」
「はい、偉いお坊さんが、ここをお通りになると聞いて待っていました。
一番始めにこられたお坊さんは、
火界(かかい)の呪文を唱えておられたので、
こしの上は一面の火の海でございました。
うっかり近寄ろうものなら、
こちらが焼け死んでしまいますので、一目散に逃げました。
次に来られたお坊さんは、不動明王(ふどうみょうおう)の呪文を
唱えておられたうえに、セイタカ童子が鉄の杖を持って守っておられました。
それでまた、大急ぎで逃げました。
今度のお坊さまは、恐ろしい呪文はお唱えにならず、
ただ、お経を心の中でよんでおられただけでした。
それで恐ろしいとも思わなかったのですが、
こうして、捕まえられてしまいました」
中国のテングが、やっとこう答えると、童子たちは、
「大して、重い罪人でもなさそうだ。許して逃がしてやろう」
と、言って、みんなでひと足ずつ老法師の腰を踏みつけると、
向こうへ行ってしまいました。
慈恵大僧正(じえだいそうじょう)の一行が山を上って行ってしまうと、
日本のテングはそっとやぶの中からはい出して来ました。
そして腰の辺りをさすっている、中国のテングのそばに行きました。
「いかがなされた。今度は、うまく行きましたかな?」
日本のテングは、しらぬ顔で聞きました。
すると中国のテングは、目に涙を浮かべながら答えました。
「そんな、ひどい事を言って下さるな。
さながら、生き仏の様な徳の高い名僧たち相手に、
勝てるはずもないではないか」
「ごもっともでござる。
しかし、あなたは中国という大国のテングではござらぬか。
それゆえ、日本の様な小国の人など、たとえ高僧、名僧とはいっても、
心のままにこらしめる事が出来ると思うたまでの事でござる。
・・・が、この様に腰まで折られるとは、まことにお気の毒な事でござるわ」
日本のテングもさすがに気の毒だと思い、
中国のテングを北山にある温泉に連れて行きました。

そして折られた腰を温泉に入れて治してやってから、
中国の国へ送り返してやったという事です。
おしまい
長文のお話を最後までお読みいただいてありがとうございましたm(*^_^*)m
テングの腕比べ
むかしむかし、
中国にチラエイジュというテングがいました。

このテングがはるばる海の上を飛んで来て、
日本にやって来ました。
そして、日本のテングに言いました。
「わが中国の国には偉い坊さんがたくさんいるが、
われわれの自由にならぬ者は一人もいない。
日本にも修行をつんだ偉い坊さんがいると聞いたので、
わざわざやって来たのだ。
一つその坊さんたちにあって腕比べをしたいと思うが、どうであろう」
中国のテングは、偉そうな態度で言いました。
日本のテングはその態度に腹を立てましたが、
しかしそんなそぶりは見せず、丁寧な口調で言いました。

「それは、それは。遠いところを、わざわざごくろうさまです」
実は日本には、名僧、高僧と呼ばれる偉い坊さんがたくさんいて、
テングたちよりも強いのです。
そこでこの傲慢(ごうまん)な中国テングに、
ギャフンと言わせてやろうと思ったのです。
「いや、この国の偉い坊さんといっても、あまり大した事はありません。
我々でも、こらしめてやろうと思えばいつでも出来ます。
しかし、せっかく遠い国から来られたのですから、
適当な坊さんを、二、三人お教えしましょう。
どうぞ、わたしと一緒においで下さい」
そう言って日本のテングは、
中国のテングを連れて比叡山(ひえいざん)にやって来ました。
そこは、京都から比叡山の延暦寺(えんりゃくじ)にのぼる道です。
「わたしたちは人に顔を知られているから、
あの谷のやぶの中に隠れておりましょう。
あなたは年寄りの法師に化けて、ここを通る人をこらしめて下され」

そう言うと日本のテングは、さっさとやぶに隠れてしまいました。
そして、中国のテングの様子をうかがっていました。
中国のテングは、見事な老法師(ろうほうし)に化けました。
しばらくすると山の上から、余慶律師(よぎようりつし)という坊さんが
手ごしに乗り、たくさんの弟子たちを従えて京都の方に下りて来ました。
余慶律師の一行は、次第に近づいて来ました。
(さて、いよいよだぞ)
しかし、ふと中国のテングの方を見ると、もう姿が見えません。
余慶(よぎよう)の方は何事もない様に、
静かに山を下って行きました。
(おかしいな、どこへ行ったんだ?)
そう思いながら中国のテングの探すと、
何と南の谷にお尻だけ上に突出して、
ブルブルと震えているではありませんか。
日本のテングは、そこへ近寄ると、
「どうしてこんな所に、隠れておられるのか?」
と、尋ねました。
すると中国のテングは、わなわなと震える声で、
「さっき通ったお方は、どなたじゃ?」
と、尋ねました。
「余慶律師という、お方でござる。
それより、なぜこらめしては下さらんのじゃ?」
日本のテングが言うと、中国のテングは頭をかきながら、
「いやそれ、その事でござる。
一目見て、これがこらしめるという相手だとすぐにわかった。
そこで立ち向かおうとしたのだが、
何と相手の姿は見えず、手ごしの上は一面の火の海。
これはとうていかなわぬと思って、隠れたというわけでござる」
それを聞いた日本のテングは、心の中でニヤリと笑いました。
(やはり中国のテングと言っても、大した事はない。
もう少しからかってやれ)
しかし、真面目くさった顔をして言いました。
「はるばると中国の国からやって来られて、
これしきの者さえ、こらしめる事が出来ないとは。
今度こそは、必ずこらしめてくだされ」
「いや、いかにも、もっともでござる。よし、見ておられい。
今度こそは必ずこらしめてごらんにいれよう。ふん! ふん!!」

中国のテングは気合を入れると、また老法師に化けました。
しばらくすると、また手ごしに乗った坊さんが山を下りて来ました。
それは、深禅権僧正(しんぜんごんそうじょう)という坊さんで、
手ごしの少し前には、先払いの若い男が太い杖をついて歩いています。
日本のテングは、やぶの中からじっと見ていました。
中国のテングは手ごしの近づいてくると、
通せんぼうする様に立っていましたが、
先払いの若い男が怖い顔をして太い杖を振り上げると、
思わず頭をかかえてそのまま一目散に谷に駆け下りました。
「いかがなされた。また、逃げて来られたではないか」
日本のテングは、やぶの中から声をかけました。
すると中国のテングは、苦しそうに息をはずませながら、
「無理な事を言われるな。手ごしの方どころか、
あの先払いにさえ近寄る事が出来ぬわ」
「そんなに、恐ろしい相手でござるか」
「いかにも。
わしの羽の早さは、はるか中国から日本まで飛ぶ事が出来るが、
とてもあの男の足の早さにはかなわぬ。
もし捕まったら、あの太い鉄の杖で頭をぶちわられてしまうわ」
「さようか。では、次こそ頑張って下され。
せっかく日本まで来られたのに、手柄話一つなしに帰られたとあっては、
めんぼくない事ではござらぬか」
日本のテングはそう言うと、さっさとやぶの中に入ってしまいました。
中国のテングは仕方なく、次に来る坊さんを待つ事にしました。
しばらく待っていると、下の方からたくさんの人が
山を上って来るのが見えました。
先頭には、赤いけさを着た坊さんがいて、
その次には若い坊さんが、立派な箱をささげて続きます。
その後ろから、こしに乗った人が山を上って来たのでした。
そして、こしの左右には二十人ぐらいの童子たちが、
こしを守る様にしてついています。
このこしに乗っている人こそ、
比叡山延暦寺の慈恵大僧正(じえだいそうじょう)で、
一番偉い坊さんだったのです。
日本のテングは、やぶの中からそっとあたりを見回しました。
しかし中国のテングの老法師の姿は、どこにも見えません。
「また逃げたかな。
それとも、どこかに隠れて、すきを狙っているのかな」
すると童子たちの中の一人が、
大声で話しているのが聞こえてきました。
「こういう所には、とかく仏法(ぶっぽう)の妨げをする者が
ひそんでいるものだ。よく探してみようではないか」
すると元気のいい童子たちは、手に手に棒きれを持って、
道の両側に散らばって行きました。
見つけられては大変と、
日本のテングはやぶの中深く潜って行き、そっと息をひそめていました。
と、谷のすぐ向う側で、童子たちの怒鳴っている声が聞こえてきました。
「そら、ここに怪しい者がいるぞ。ひっとらえろ!」
「何だ、誰がいたのだ?」
「おいぼれの法師が隠れていたぞ。
あの目を見ろ、普通の人間には見えぬぞ」
(大変だ。中国のテングが、とうとう捕まったぞ)

日本のテングも恐ろしさに、
ただ頭を地にすりつけるようにして、じっとひれ伏していました。
やがて足音が、遠ざかって行きました。
日本のテングは、そっとやぶからはい出すと、
あたりを見回しました。
すると十人ばかりの童子たちが、
老法師姿の中国テングを取り巻いているのが見えました。
「どこの法師だ、名前を言え。
なんの用があって、こんな所に隠れていた!」
一人の童子が、大声で言いました。
中国のテングは大きな体を小さくして、あえぎあえぎ答えました。
「わたくしは、中国から渡って来た、テングでございます」
「なに、中国のテングか。何をしに来たんだ」
「はい、偉いお坊さんが、ここをお通りになると聞いて待っていました。
一番始めにこられたお坊さんは、
火界(かかい)の呪文を唱えておられたので、
こしの上は一面の火の海でございました。
うっかり近寄ろうものなら、
こちらが焼け死んでしまいますので、一目散に逃げました。
次に来られたお坊さんは、不動明王(ふどうみょうおう)の呪文を
唱えておられたうえに、セイタカ童子が鉄の杖を持って守っておられました。
それでまた、大急ぎで逃げました。
今度のお坊さまは、恐ろしい呪文はお唱えにならず、
ただ、お経を心の中でよんでおられただけでした。
それで恐ろしいとも思わなかったのですが、
こうして、捕まえられてしまいました」
中国のテングが、やっとこう答えると、童子たちは、
「大して、重い罪人でもなさそうだ。許して逃がしてやろう」
と、言って、みんなでひと足ずつ老法師の腰を踏みつけると、
向こうへ行ってしまいました。
慈恵大僧正(じえだいそうじょう)の一行が山を上って行ってしまうと、
日本のテングはそっとやぶの中からはい出して来ました。
そして腰の辺りをさすっている、中国のテングのそばに行きました。
「いかがなされた。今度は、うまく行きましたかな?」
日本のテングは、しらぬ顔で聞きました。
すると中国のテングは、目に涙を浮かべながら答えました。
「そんな、ひどい事を言って下さるな。
さながら、生き仏の様な徳の高い名僧たち相手に、
勝てるはずもないではないか」
「ごもっともでござる。
しかし、あなたは中国という大国のテングではござらぬか。
それゆえ、日本の様な小国の人など、たとえ高僧、名僧とはいっても、
心のままにこらしめる事が出来ると思うたまでの事でござる。
・・・が、この様に腰まで折られるとは、まことにお気の毒な事でござるわ」
日本のテングもさすがに気の毒だと思い、
中国のテングを北山にある温泉に連れて行きました。

そして折られた腰を温泉に入れて治してやってから、
中国の国へ送り返してやったという事です。
おしまい
長文のお話を最後までお読みいただいてありがとうございましたm(*^_^*)m
Posted by ききみみあんこ at 15:03│Comments(0)
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